東京大学 大学院農学生命科学研究科 アグリコクーン講義「国際農業と文化」
国際農業と文化ゼミナール2021
このページは、受講生のレポートを共有することにより、講義を単に受けっぱなしにせず、自分の考えを主体的に表現し、自分とは異なる視点もあることに気づくことで、より深みのある講義にすることを目的に作成しています。
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Q1-1.溝口教員の講義で重要だと思ったことを 1 つ挙げてください。
- 有限である水を有効的に利用し管理できる技術・手法
- 日本の技術力や、国際協力において何ができるのかと、 現地の文化・伝統・ニーズを、 考えることが必要だということ。
- 世界で仕事をしていくならば、官報の日英どっちもあるパンフレットを見比べるのが、わかりやすい第一歩になる、ということ
- パンフレットには農学部として知っておくべき要点が沢山あり、一読しておくべきだと感じました。
- パンフレットのような資料を隅々まで一度読むことが研究者として大切だと言っていたことが、印象的だった。
- 日本は大規模かつ高精度な治水を可能にする技術を持っていることを知った.世界様々な地域で多様な水管理が行われており,相互にその特性を生かしあうような開発が役立つのだろうなと感じた.
- 農業を行うには栽培する作物の前に農業の基盤整備(特に水資源)を考える必要がある.
- 世界中の人と議論するために、頻出単語を英語で使えるようにしておくこと
- 途上国において開発をする際、既存のシステムの提供だけでなく地域の特性に根ざしたシステムの開発が必要であるということ
- 腹を割って話せる友人を現地で持つことは調査を進めるうえで重要。
- 農業の開発には現地の水資源の適切な利用が必須であり、灌漑の目的や方法などを地域に合わせて 考える必要があるということ。
- 灌漑が降水量によって地域ごとに変わること。
- 世界の灌漑のパンフレットに関するディスカッションで、人口は45年間で2.6倍になったが農業用水は横ばいである点が面白いと話をしていた時に先生がおっしゃった「水利用の効率が技術で改善していくのが農業の重要なところ」という話や点滴灌漑の話がそれなりに多雨な日本では重要性を感じにくいが世界に飛び出して灌漑を考える上で重要な点であると思った。
- 水文条件や天候による灌漑方式の多様性
- 土と水という移動できずまた国境関係なく跨ぐものだからこそ、それぞれの国の特徴や多様性が色濃く生じ、国際的な問題となっている資源に対してどう向き合うかという姿勢
- 将来、農業基盤整備事業を行うことがあれば灌漑に関する情報や英語の専門用語を知っていることが重要ということ。またそのような情報が農林水産省によってまとめられていることを知れたのは大変ありがたかったです。
Q1-2.中西教員の講義で重要だと思ったことを 1 つ挙げてください。
- 米の消費量が減少傾向にある中でも、米の品種は増加傾向にある。付加価値の高い(高品質)品種の育種も進んでいる。
- 食物の栽培の歴史は、有用形質を拾い集めることの繰り返し。 近年は、ゲノム編集などあらゆる手法で、新たな有用形質を持つ作物を作り出している。
- 日本の稲作の昔は、東南アジアの今だったりする。
- 日本で昔見られた稲作の作業形態が現在の形態となるに至った理由や歴史的背景を知ると、他の国の事例を解釈しやすくなり、建設的な気付きを得られる。
- 日本の稲作の様子も刻々と変わっている.コメ余りの加速,スマート農業の推進,農業体験ゲームの登場など.海外の農業の動向を知ると同時に国内農業の動向もおさえる必要があると感じた.
- 低Cdコシヒカリによって、食品からのCd摂取量を6割にまで低減させることができ、7回の勾配によってコシヒカリ純度を99.6%にまで高めることができること。
- 秋田県はカドミウムの濃度が高いという話を初めて知ったが、そのニーズに応じた低カドミウムのあきたこまちRを作ることができるのはこれからの可能性も含めて大変重要なことだと感じた。
- 低Cdコシヒカリは食品からのカドミウム摂取量を大幅に低減させ,コメはほかの作物よりも食べる量が多いので効果も大きいこと。
- 日常的に食べていることで逆に考える機会が少ないが、コメの生産技術については現在も格闘が続いていて、途上国の生産状況も刻々と変化しているということ。
- ゲノム編集と植物の関係
- 日本人の米の消費量が減少しているということ
- 日本は食味に特化した品種改良がなされていて,東南アジアの生産性が十分に向上しすればその食味向上への品種改良技術が海外でも役に立つようになるのではないか.
- 高収量品種や虫害や病気に強い種、味の良い品種といった人間が楽になるような機能を求めたものだけではなく、色等の機能の向上を目的としない理由でも品種改良や組み換えが行われるという事を初めて知った。最後に紹介された低Cd米については米だけでここまでCd摂取量が増えている点も驚きであった。
- 海外の農業に触れる前に、まず国内の農業について学ばなければならないという話が強く響きました。
- カドミウムを吸収しないあきたこまちRなどの最新の育種に関して、今後それらの環境問題などがより強く消費者の関心となってゆくと思うので重要だと感じた。
- 栄養や食味だけでなく、あきたこまちRのカドミウム吸収抑制のように過剰摂取が心配される有害物質の含有量を抑えるような育種が行われていることや戻し交配を繰り返すことで元となった植物の他の特徴(食味や倒伏耐性など)を引き継ぐことが可能である技術が重要だと思いました。
Q1-3.加藤教員の講義で重要だと思ったことを 1 つ挙げてください。
- 地域によって、稲作に対するスタンスが異なる。日本人は、合理性を追求するよりも、汗水流して苦労する方が美徳と考える文化があるが、これは、簡単に移住できない島国だから生まれたのではないか。考え方の違いは、土地の違いによるものなのかもしれない。
- ラク=省力化ではなく,楽するとは楽しむことというのはコメがほかの作物に比べて異常に丁寧に育てられていると感じた。 日本では品種よりも生産改良で収量を上げてきたのは初めて知った。
- 海外での技術開発や普及を考えるとき,相手国や現場のことを一番に考える必要がある.先進国側の押し付けにならないように気を付けなければいけない.
- 途上国の課題抽出は、減点方式ではなく適応性の視点を持って取り組むこと。 東南アジアの水田例で、畑状態で田植えをするのは本当にびっくりしました笑
- 気候や文化によって農業技術や農民の姿勢が大きく変わること
- 途上国で連綿と受け継がれてきた、一見すると非効率な方法にも、歴史的な背景と意味合いがあり、彼ら対して何かを指摘するのではなく、リスペクトの気持ちを持つこと。
- 説明のあった日本の稲作文化を見ていると、根性や泥臭い努力は仕事は休暇を楽しむための準備であるという現代のライフワークバランスに致命的に合わないように感じる。農家さんは休耕期でないと旅行にも行きにくいなどとよく言われるが、彼らが作物を気にせず休暇を取れるような生活が後継者問題を考えても今後の理想と私は考える。日本の小さく家族単位の圃場に則した省力化を考える事が重要と感じた。
- 農業(稲作)と人間の生活との密接な結びつき:世界の稲作は多様性に富んでおり,それぞれが醸成されてきた背景には,人々の文化や国民性,地理的要因などのさまざまな要因が透けて見える.
- 日本と海外で稲作に関する考え方が顕著に違うということが印象的だった。特に日本が勤勉さや努力の過程を重視する理由が農業をベースに紐解いていく過程はかなりわかりやすかった。
- 現地調査で合理的でないと感じても文化等を総合的に勘案して何らかの合理性を見出す努力をすること
- 科学技術を現場に応用する段階では、現地の人間が持つ文化や考え方などを考慮する必要が出てくること。
- 途上国に援助をする際は、自分たちが優れている意識を持たずに、現地で培われた技術の合理性を見つける姿勢が大切だということ。
- 国や地域によって農業に対する合理性や目的が違うということ
- 日本の農耕文化に関するユニークエピソードを1つ思っておくこと、国際協力ではフェアな立場を意識すること
- 各地の伝統的な農業の背景には、栽培管理の最適化を重ねた歴史があるということ。
- 日本文化に支えられる稲作という視点が興味深かった。その上で日本の新潟などで稲作としての印象が強すぎるが故に稲作文化の衰退がそのまま地方衰退につながってしまう現状に対して意見を伺ってみたいと思った。文化と稲作の関係性という観点でこれらの問題はどう位置付けられるのか。
- 文化の違いにより優劣をつけるべきではないこと、この考えは他国で活動するにあたって忘れてはいけない重要なことであると思います。何をもって良しとするのか異なる視点から見ることの難しさを知ることができ勉強になりました。
Q1-4.総合討論「環境と農業」で取り上げてほしいテーマを書いてください。
- 遺伝資源の保存について、農家さんの利益と持続可能性の両立について
- 途上国での農業開発支援の経験談や具体的な問題を知りたい。
- 世界の水利用とその課題解決
- ネゲヴ砂漠に水を運ぶ理由はなにか。
- 他国における低Cd作物の開発状況。日本酒に適するコメと食味の良いコメの違い。
- ゲノム編集と生命倫理
- ・遺伝子組み換え作物の利用と生態系への懸念 ・今後世界でどのような品種が求められるか
- 日本では稲作→養殖の転換はされているのか?
- 気候変動へ適応する戦略として、稲の育種や栽培技術の更新、あるいはゲノム編集といったものがあると思いますが、そもそも気候変動そのものをどうにかしようみたいな農学のアプローチを考えたりしますか? どこを見て先生方が研究をしているのかを知りたいです。
- 先ほども少し触れられていましたが、農耕文化が日本人の性格的なところと結びついている例が他にもあれば知りたいと思いました。島国だからこそ、そこにある資源を最大限に有効活用するしかなかった、その結果日本人はその場で何とかする(合理的ではないかもしれないが)力が育まれていったのではないかという考察はとても興味深かったです。
- その土地に最適な方法とその土地に元々ある伝統的な栽培方法にはしばしば差異がある(農家さんの負担が本来はもっと低くていいような場合もあるのではと思っている)と思うのですが、そこの改善や見直しで現地政府などに協力を行う場合、現地の農家さんにどのような配慮が必要だと思うかお三方にお聞きしたいです
- 持続可能な農業とはなんだろうか?
- 東南アジアの農家は、地球規模の環境問題に興味を持っているか。また、興味が薄い場合は、今後持っていく必要があるのか。
- 農業などの技術を伝える際、日本人が考える合理性と、途上国の人たちが考える合理性の違いを擦り合わせる必要があるときにどのように対応すれば良いか
- 途上国に対する合理性や効率性の高い技術・方法の提供は必須なのか
- 東南アジアの農家さんを対象に研究を進めていくにあたって、そもそもアポイントはどうとるのか、直接説得しに伺うのか。
- その土地に最適と思われる方法(A)と伝統的にその土地で実践されている方法(B)があり、収量や農家さんの負担、水利用効率などを比較した時にAの方が優れている場合もあると思うのですが、現地の農家さんと協力して改善に取り組む際にどのような配慮が必要だと思うかお聞かせください。(何度か出てきている宗教的な価値観などを始めとして、他に何かあれば)
- 自由に遺伝子組み換えができるようになるまで、あとどのくらいの技術的課題があるとお考えですか? 今後の農業開発において重要な要素は何なのか?技術開発か、技術普及か、それとも別の何かか?
- 近年では合理性ももちろんだが、高級、ブランド志向という流れもあると考えているが、稲作ではそれらの流れに乗ることは可能なのか。
- 途上国では遺伝子組換作物に対する抵抗は強いのでしょうか。あまり気にしない人が多いのでしょうか。
Q1-5.1日目の講義の感想を書いてください。
- 泥臭さ⇔合理的の二項対立そのものが古いという話がありそう。 双方向性の授業は、参加者の主体性に依存するのでなかなか大変だと思います...。先生方の研究室の学生をサクラに使ったりすればいけるのかな...。
- 一番印象的だったのは、気候変動そのものに関する質問についての教授方の回答だった。温暖化活動をどう削減するのか、またはどう対応するのかの2つの選択肢があるというのがまず学びだった。他の分野と関わる横断的な研究がモチベーションになってるという話も興味深かった。また、総合討論をしていく中で私は合理性には合理性の良さがあって、伝統には伝統の良さがあり、二項対立のように議論できるものではないのではないかと考える。伝統的な農業には今までの景観や生物多様性を保つ場を保存して文化的な良さを継承していくことができる利点があり、合理性は生産性や質を上げることができる利点がある。この二つを単純に天秤にかけることができないのではないかと考えた。
- 最後の討論で、グループに分かれて泥臭い農業の方式について若者的にはどうなのかという話をした時、農業と漁業の後継者問題の話が出ました。漁業では月収100万にもなるようなホタテ養殖加工でも労働力に困っているという話や青森でサーモン養殖をコツコツ頑張っているがノルウェー産より生産量が少なく質も悪いのであまり卸せず成功してはいないという話を聞きました。やはり農業は産業として次世代に繋いでこそだと思っているので、収入に困らずかつプライベートの時間も確保しやすくなるように、若者が就農しやすくなる方に舵を取るのが大事ではないかと思いました。 私自身は学部時代リモートセンシングやIoTの話をやっていたので人間より機械の眼の方が信用できる(スマートな実用にはまだ課題が多すぎますが)と思っているのと、特性の関係で地道な努力やコツコツといったものが生まれつき苦手なので、そういうものがどんな職種でも求められない社会になれば更にハンデがある人にも働ける方向性の選択肢が増えて理想的だな…という気持ちで合理的かつスマート農業に投票しました。
- 最後の議論とても楽しかったです。私は合理主義者ですが、逆に根性がないからこそ、根性で継続することの重要性も身にしみて感じています。
- スマート農業は今後伝統的農業よりも合理的になる時が来るのだと思いますが、どちらか一方という未来ではなく、多様な農業形態が存在するようになれば良いなと思います。
- 合理性と根性論の議論はかなり面白かった.ただ,根性がなければやっていけないというのはどこも同じで,農業はそれが肉体的な負担というところに明らかになるからそういうイメージが付きやすいのかなと思う.根性でやってきたところを機械の導入などで合理化するというのはまさにそれが経済発展なわけで,そこで生まれた余剰人員をいかに他産業に移行させるかが国として本来手腕を発揮させるべきところなのではないか. それをせずに票田として抱えているからいつまでたっても農業も他も限界成長が減ってきているのではないかという偏見を持っています. とにかく1日目,活発な議論が楽しかったです.
- 最後の根性か合理性かの議論か興味深かったです。今後農業をより良いものとするためには合理的な計画を立てた上で根気よく実行するという、根性と合理性の両輪が必要であると感じました。
- ラク=省力化ではなく,楽するとは楽しむことというのはコメがほかの作物に比べて異常に丁寧に育てられていると感じた。 ネゲヴ砂漠でのブドウ栽培は通常の土地に比べて降水量が少ないため水量をコントロールして品質を向上しやすいというのは面白い発想だった。ネゲヴ砂漠に大学や研究所を作り人口を増加させているのは核兵器貯蔵施設のカモフラージュとも思った。
- 普段作物しか見ていないけれど,農地環境とかその他の側面からも農業を考える必要性を感じました.また,最後の総合討論にで皆さんの考えを聞くのが非常に楽しかったです.根性論に対する見方が世代によって変わっていくことが出ていたと感じました.今後農業はもちろんのこと,社会のさまざまな構造がそういった価値観の違いに影響されて変わっていくのだろうと思います.しかし,流行というか社会の流れは循環するものだと思うので,いずれ時がたったら(その時代の文脈での)泥臭さみたいなものがまた台頭する時代もくるのではないかと考えました.講義ありがとうございました.
- 実際は、合理的な農業と伝統的な農業、両方を理解して選択できる立場にいる人は少ないと思う。 合理的農業を行う人はそれがベストだと思っていて、伝統的農業を行う人はそれがベストだと思っていそう。。 伝統的農業を行う人でも、スマート農業を気軽に始めることができる環境があればすぐに始めたいという人が多いかもしれない。 p.s. ハチ公前のプランターに植えてみたいです。
- 私個人的には伝統的な泥臭い農業に価値を感じます。そこには長年蓄積した経験値というものがあり、AIなどを用いた効率化によっても補えないものがあると思うからです。AIにその経験値を読み込ませることも可能かとは思いますが、効率化や機械化によって置きかわってしまった後に残った伝統的な農法が、文化を残すためでしか存在意義がないのはとても危うく、将来的にはその文化も無くなってしまう可能性があるからです。「効率」を得たことによって失うものが「文化」というのはとても大きな代償ではないかと感じました。
- 多専攻からの参加でしたが、とても有意義な学びを得ることができました。ありがとうございました。これまで農業を自然科学的な側面から捉えることが多かったのですが、社会学的・人文学的に考える面白さに気が付きました。農村工学と日本の歴史の組み合わせは大変興味深かったです。またディスカッションでの皆さんの意見もとても秀逸で、今後も専攻問わず色々な講義に顔を出して、知見と人脈を増やしたいと感じました。ありがとうございました。
- 日本の伝統的な稲作について、丹念な作業のルーツが、実際に丹念に作業をすることで収がを増加していた過去にあるという意見が非常に理にかなっていると感じた。しかし現代においてはもはや一定以上の丹念さは収量にはほぼ関係がなく、日本においても労働と収量のバランスが取れている農業を推進するべきだと感じた。 また、最後にご質問させていただいた、ODAなどによる大規模な援助と村レベルでの伝統を守りながらの援助は両立が難しいという話について、援助のあり方を議論してみたい。
- 農業は合理的に行うべきかという議論に関して。合理と泥臭さというものはそもそも二律背反な対立軸なのかと思った。現場の人間はそんなに合理的な手法を拒絶しているのかなど実際の稲作農家の方に聞いてみたいことが浮かんだ講義であった。
- 農業において合理化は必要であると思うが、与えられた技術の中身を理解せずに、ただ使用することには抵抗がある。合理的な仕組みを利用するには、まずは泥臭く作業をして農作物を知ることが欠かせないように感じた。
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みぞらぼ, 農学国際専攻, 農学生命科学研究科, 東京大学)
amizo[at]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
Update by mizo (2021.6.9)