国際情報農学研究室相良グループ 共同研究紹介
共同研究紹介

■事例1:刺激系清涼飲料水の味覚研究
(共同研究先:サントリー株式会社)

苦味を呈する新奇な嗜好飲料の感性評価手法に関する研究

1. 潜在するクラスターの探索

背景と目的
 苦味は生得的には毒物のシグナルと認識され、摂食の拒否を促すが、ビールやコーヒー等の苦味を呈する食品の中には、嗜好品として好まれ習慣的に飲食されるものが多い。このような嗜好性飲料の開発においては、その香味に対して受容性の高い消費者の嗜好特性を明らかにすることが重要である。

 本研究の目的は、苦味を特徴とする新奇な飲料を用いて、1)消費者個人の嗜好特性を明らかにし、類似の嗜好特性を有する集団に分類した上で、飲料中の苦味・甘味成分濃度とおいしさとの関連性を明らかにする手法および、2)苦味の受容性と食経験およびパーソナリティとの関連性を探索する手法を構築することにある。

方法
 試料として、実験計画法に基づき調製した3水準の甘味・苦味成分濃度を有する飲料9サンプルを用いた。2003年1月、大学生89名をパネルとする官能評価と同時に、食経験やパーソナリティなどに関するアンケート調査を実施した。なお官能評価では、おいしさと香味(甘味、苦味、味の濃さなど合計7項目)の強度を7段階尺度により評価した。

 各サンプルに対する官能評価スコアの分布を比較した結果、苦味成分濃度の高いサンプルにおいて嗜好度にばらつきが認められ、異なる嗜好特性を持つ集団が潜在的に存在していることが示唆された。これより、個人の嗜好特性を表す指標として、おいしさと香味の強度値の相関係数を算出し、Ward法により3クラスターに分類した。また、各クラスターの嗜好特性を明らかにすると共に、苦味・甘味成分濃度とおいしさとの関連性をマルチスプライン補間を用いる近似手法により応答曲面として示した。さらに、クラスターとアンケート調査項目とのクロス集計により、各クラスターの食習慣およびパーソナリティにおける特徴を探索した。

図1

図2

結果
 図3に本研究で得られた結果の一例として、それぞれのクラスターにおける苦味・甘味成分濃度とおいしさの関連性を表す等高線図を示した。全体の75%を占めるクラスター1は、甘味を好み、苦味を嫌う集団であり、9サンプルの中でも甘味成分濃度が高く、苦味成分濃度の低いサンプルを好むことが示された。他方、全体の16%を占めるクラスター2においては苦味の受容性が認められ、苦味成分濃度の高いサンプルに対する嗜好が確認された。残り9%のクラスター3は、甘味および苦味に負の嗜好を持つことが明らかとなった。
図3

結論
 本研究で用いた解析手法により、嗜好特性の異なる集団と、その集団における甘味・苦味成分濃度とおいしさとの関連性が明らかとなった。また、アンケート調査データの分析により、苦味受容性などの食経験とパーソナリティとの関連性が示唆された。このように、消費者の感性を考慮した解析手法により、潜在的に存在する消費者の嗜好特性を抽出することが可能となり、より明確なターゲットに対する甘味・苦味最適配合のシミュレーションの可能性が示された。

2. 継続飲用が嗜好獲得に与える効果

研究の背景
 食品においては、繰り返し摂取が嗜好形成に影響を及ぼすことが報告されている。継続摂取により甘味や塩味を含む食品への嗜好は増大するという報告がある一方、苦味を有する食品を対象とした報告は数少ない現状にあるが、苦味を呈する嗜好性食品が多いことから、苦味の継続摂取は嗜好形成との関連性が高いと考えられる。
 製品の開発段階では、消費者を対象とした一過的な官能評価のみならず、前述したような継続摂取による嗜好獲得を考慮した品質評価手法を開発・導入することにより、潜在的なマーケット需要の評価も可能となると期待される。

目的
 本研究の目的は、苦味を特徴とする新奇な飲料を対象に、1)継続飲用が嗜好に与える影響を明らかにし、その嗜好の変化パターンの類型化を行う手法、および2)苦味の受容性と食文化やパーソナリティとの関連性を評価し、継続飲用などの長期的な嗜好獲得と関連する要因を探索する手法を構築することにある。

方法
 2003年4月、20代後半の社会人女性30名を対象に、10日間の継続飲用調査を実施した。継続飲用試料には、サントリー(株)製BINTATMリフレッシュドライを用い、パネルは試料を毎日飲用するよう教示され、香味およびおいしさの強度を評価した。また、苦味に対する嗜好形成を比較するため、苦味成分を除いた同試料を対照サンプルに用い、継続飲用前後に同一項目の官能評価を実施した。なお、官能評価では、甘味や苦味など合計7項目を9段階尺度にて評価した。

結果
 図1に、本研究で得られた結果の一部を示した。継続飲用前後におけるBINTAおよび対照サンプルに対する嗜好度の変化を二元配置の分散分析にて比較した結果、サンプルおよび時間の主効果が見られたが、交互作用は認められなかった。これは、サンプルに対する評価のばらつきが大きく、異なる変化のパターンが複数存在していたためと考えられる。そこで、継続飲用前後における嗜好度の変化パターンをWard法によりクラスター分析を行った結果、3通りの変化パターンへの分類が可能であった。各パターンを示した人数は、それぞれ11名、11名、8名であった。図1は、各パターンの継続飲用前後における2サンプルに対する嗜好度の評価の結果を示している。

 パターン1では、サンプルと時間の交互作用は認められず(F(1,10)=0.66, P=0.436)、継続飲用による嗜好の変化は小さいことが示された。一方、パターン2においては、継続飲用前後でBINTAに対する嗜好度が大きく増大し、サンプル×時間の交互作用が認められ(F(1,10)=56.7, p<0.01)、継続飲用により苦味に対して特異的に嗜好が形成されるパターンといえる。パターン3においては、継続前において既にBINTAに対する嗜好度は高く、交互作用は認められなかった(F(1,7)=1.27, p=0.27)。

図1

考察
 本実験より、被験者の約3割において継続飲用による嗜好度の増大が認められ、初めは嗜好度の低い飲料においても、継続飲用によって嗜好が獲得されるパターンの存在が示された。本研究の結果から得られた知見をもとに、今後も、苦味に対する嗜好形成メカニズムを明らかにし、嗜好変化パターンと食経験およびパーソナリティとの関連性を探索することにより、継続飲用による嗜好獲得の期待される消費者をターゲットとした製品開発手法の構築に寄与する研究を推進する予定である。また、苦味摂取の心理効果を生理計測により客観的に明らかとする研究も同時に計画されている。
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