国際情報農学研究室相良グループ研究概要
国際情報農学研究室 相良グループ 研究概要

 農学国際専攻は平成9年に新設された大学院専坦の新専攻で、その設立の目的は地球規模で深刻化している食料・環境・エネルギーに関連する諸課題に対し、農学を基盤として総合的に解決するための国際的スペシャリストを育成することにある。

 相良研究室で、現在進行中の研究テーマは

 1) 国際協力
 2) 食品工学
 3) 食感性工学

の3分野に大別される。これらの分野に含まれる個別の研究テーマはその大部分を国内外の研究者との共同研究プロジェクト方式により推進しており、将来的にもこの方式を踏襲する計画である。特に、現在主に国内で実施している基礎研究を国際プロジェクトに展開してゆくことを基本方針としている。以下に分野ごとの研究テーマと共同研究機関名を示し、それらの研究計画の要点を述べる。

 1) 国際協力:
 (1) ジャカルタ市農産物市場建設基本計画
 (2) メコン川水利用・管理システム
 (3) インドネシアNGOの実態調査と国際NGO協力のスキームの開発
 (4) 国際協力プロジェクトの事後評価手法モデルの開発
 (5) パームオイルを利用したバイオディーゼル燃料製造プロセスの開発

 農産物市場の建設計画は修論の課題として基本設計の段階を終了し、今年度から農業省とジャカルタ市場およびIPB関係者を交えて実施設計に移す計画である。また、プロジェクト事後評価モデルに関する研究は、クラーク大学から提供されたUSAIDの評価モデルを参考にして、JICAのプロジェクトに適用可能な標準的評価モデルを創出する計画である。

 他方、スハルト政権崩壊後のNGOの実態については、昨年1年間に渡りポストドク研究員が現地に滞在して調査してきたが、主管庁の機能停止による登録データの散逸と膨大なNGO数の存在、さらにはその活動の多様性に悩まされ、調査結果のデータバンク化が遅滞している現状にある。このため、今年度からはJICAジャカルタ事務所の協力と同研究員がボゴール農科大学(以下IPB)教職員と共同で設立した初中等教育改善NGOを通じて、NGOネットワークの実体解明を進める計画である。

 バイオディーゼル燃料の開発により車両排気ガスの規制値をクリアーするための新しいエステル化反応プロセスに関する基礎的研究は、これまで国内廃食油を対象に食総研との共同研究として実施してきたが、次年度からはIPBにてこの成果をインドネシアとマレーシア産のパームオイルに適用するための反応工学的基礎研究を開始する計画である。

 2) 食品工学:
 (1) 米飯の冷蔵・冷凍保存条件と品質評価システムの構築
 (2) 冷凍食品内氷結晶3次元構造計測法の開発
 (3) 食品凍結プロセスシミュレーションモデルの開発
 (4) 凍結乾燥プロセスにおけるアロマの保持と変性メカニズムの解明
 (5) 過熱蒸気オーブンを利用した解凍・クッキングプロセスにおける移動現象の解明と品質評価法の開発

 冷凍米飯の最適保蔵条件に関する研究では、高齢化社会の到来に対処して、健康・介護食などの宅配や食育情報提供を通じて生活習慣病を予防する社会システムモデルを構築する計画である。共同研究者の武蔵野フーズはこの構想をモデル事業として既に実施しており、これまでに高齢者がおいしいと感じる米飯の冷凍条件を明らかにした。

 今年度からはこの条件を工場生産に適用するプロダクトマネージメントシステムを開発すると共に、ウェッブサイトを利用した同時多サイトにおける官能評価法と原料や製品のトレーサビリティーに関する研究を開始し、最終的には「安全と安心をとどけ、食生活の改善を図る」システムの構築を目指す計画である。

 2)以降の研究テーマでは、いずれも食品の冷凍・乾燥過程における熱および物質移動の解明と品質評価法を開発する事を目的としており、これらの研究成果は本研究室で博士号を取得したIPBスタッフ数名と共有している。これらのスタッフは熱帯産農産物を対象にして、同様の方法論で研究を進めており、例年、「海外実地研究」教育の一環としてこれらの研究テーマに関する共同セミナーを開催し、双方の大学院生が研究成果を発表している。

 3) 食感性工学:
 (1) ゴマの香りと最適賠焼条件の感性評価モデルの開発
 (2) 農産食品成分の誘起蛍光3次元計測による識別システムの開発
 (3) 食パンの香味評価に基づくミキシングおよび発酵操作条件の最適化
 (4) ソバ茹で後の経時変化に伴う食感劣化に関する研究
 (5) バーチャルリアリティー空間内における脳波計測に基づく五感ミコュニケーション効果の評価法
 (6) ニオイ刺激による嗅覚関連脳磁図の解析

 食感性工学は私自身が提唱してきた全く新しい学術分野であり、昨年からは農林水産技術会議のフィジビリテースタディーの課題に採択され、現在、その報告 書が総合科学技術会議にて評価の課程にある。

 これらの研究テーマは、今年度からIMLで実施している「五感コミュニケーションモデリングによる感性評価システムの開発」プロジェクトのメインテーマであり、食にまつわる人の感性を生理生体反応計測や官能評価法により定量的に評価する手法、摂食・購買行動に関する評価・判断モデル、苦み成分を有する食品を研究対象とした食嗜好形成・変動モデル、視聴覚情報によるコミュニケーション効果の評価モデルおよびこれらの成果に基づく生産管理システムとマーケティング手法などを開発する計画である。他方、近い将来、これらの成果を上海飲料市場・ジャカルタ小麦粉製品市場にて、それぞれサントリー(株)、IPB食品科学専攻スタッフとの共同研究により実証する計画である。