放射線環境科学18レポート



放射線環境科学(2018.12.5)  受講者 23名
担当: 溝口勝

レポート課題


このページは、受講生のレポートを共有することにより、講義を単に受けっぱなしにせず、自分の考えを主体的に表現し、自分とは異なる視点もあることに気づくことで、より深みのある講義にすることを目的に作成しています。
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レポート課題1:講義の感想(自由記述)12月19日23:59

  1. 「土壌物理学」という学問分野について初めて知り、興味を持った。講義を聞く前は土壌物理学がどのように除染と結びつくのか想像がつかなかったが、凍土研究と寒い東北地域での表土剥ぎ取りが結びついたのだと聞き面白いなと感じた。また、泥水の濾過などは当たり前の現象として理解していたが、放射性セシウムが周りの土や地下水に染み込まないことも同じように説明がつくのだということは言及されるまで気づかず衝撃だった。自分の中で、放射性物質を化学や物理という学問と切り離して考えていたのだなということに気づいた。被災地復興のためだけでなく、純粋に学問的に除染に対して興味を持ったので、植物の除染への利用などさらに調べてみたいと思う。

  2. 学びの多い講義をありがとうございました。 先生のときは今の私たちとは結構カリキュラムが違ったのだろうな、という印象を受けました。然程忙しくしているつもりはないのですが、日々のタスクをこなすだけで日々が過ぎていき、あまり趣味やサークルに時間を割けない状況です。しかしその余剰が生きることもあるらしいので、有機的な学生生活にしたいです。 文系で、この講義をとるまで農学には全然触れたことがなかったのですが、土壌の大切さというものが講義を通じて伝わりました。農学と物理学?と最初は不思議に思いましたが、題材(この場合の土壌)を扱う手段として物理を使っているという事で納得しました。ある学問ジャンルを、他の学問をやるための道具として使えるようになりたいです。 先生の仰っていた土壌の性質を生かした穴に埋める除染方法は実用性と効果を兼ね備えていて感動いたしました。報道されていないのは勿体なく感じました。大手メディアゆえの忖度みたいなものがあるならば、私たちのような素人が訪問ついでに発信するのはアリなのではないか、と思いました。農業が我々の生活を支えているということを都市部に住んでいると忘れそうになります。震災から時間がたち自分のなかで記憶を薄れさせてしまっていたことを反省しております。

  3. 先生が、ふくしま再生の会等と行われた現地での現地に根ざした除染等の話は、実家が田や山を持っていることもあり、とても興味深いものでした。また、先生の半生についてのお話も、進学選択前の自分にとって貴重なものでした。 (自分は20なので)機会があればぜひ 不死鳥の如く を飲んでみたいと思います。

  4. 今回の講義の内容のなかで最も印象的だったのは,飯舘村の新米を用いた純米酒の開発についてのお話です。これまでの講義で福島県のコメの作付け制限や全袋調査など,安全性に配慮した取り組みについてうかがってきましたが,福島県産のコメが安く取引される現状や風評被害についての調査結果を見て,震災前の状況に戻ることは難しいのだと感じていました。しかし,純米酒の開発は福島のコメに新しい価値を与えるもので,事故以前の状態に戻るだけでなく,将来的な農業の発展を後押しするきっかけになると感じました。

  5. この講義を取るまでは、東大がこれほどまでに福島に関わっているとは知りませんでした。そもそもこの講義を受講したのは、夏季休業中に自動車の免許合宿で訪れた山形県で、教習所の教官が奥羽山脈について、福島からの放射線を遮ってくれたから神様の山だ、と言っていたことが気になっていたからでした。そこからなんとなく福島のことが気になっており、この講義を受講することにしました。そうでなければ、これほどまでに福島のことを人事でないと感じることはなかったのではないかと思います。福島の現場に実際に関わっている方々が講義してくださったことで、余計に人事でないと感じることができました。より多くの人々のインクルージョンのためにも、事故から年数が経過していっても、現場の人の声をなんらかの形で普段は福島のことを気にかけることなく生活している人々に届けることが必要だと感じました。私は北海道の出身で、9月の地震で初めて自分の出身地が被災地と呼ばれる経験をしました。言葉にし難い感情を覚えました。福島の人々もこれに類する感情を抱いたのかと思うと、自分もプレゼンターとして講義をしてくださった方々のように、なんらかの形で福島に関わりたいと思いました。

  6. 私は震災当時小学校5年生でしたが、母親の意向で、福島原発の事故の影響を気にして半年後に東京から島根に移住したという経験があります。だから、放射能汚染に関することは人よりも身近にあるものという感覚がなんとなくあり、食品の安全やその人体への影響等、少しではありますが気になって調べたりしていました。福島県にも足を運んで避難者の一時帰宅の支援をしたこともあります。また、その際被災地の現状を見るということで原発付近にも訪れ、現地の方々のお話を聞いたりもしました。今回の授業を通しては食品の安全や土壌汚染について等に関する基本的な知識を身に着けることができましたが、比較的数字を扱う授業が多く、(例えば線量の基準値の話とか)あまり身近なものではないことのような感覚を持ちました。基準値に即して話を進めることは当たり前のことではあると思うのですが、基準がどうだからどうという話よりも、実際の被災地の方々への影響(例えば人体への影響の実情等)がどうなのかとか、今現在事故によって起きている影響についても知りたいと思いました。現地に赴いたときにも感じたのですが、現地の人々に寄り添った理解をしていくべきだなあと考えさせられました。貴重なお話をありがとうございました。

レポート課題2:


講義資料を読み、「あなた自身ができそうな被災地の農業再生について」考えを述べよ。(A4で1枚から2枚程度)レポート課題2(提出任意:試験点のボーダーが気になる人):講義の感想資料を読み、かつ講義を聴いた上で、「あなた自身ができそうな被災地の農業再生について」考えを述べよ。(2000字以内)締切: 12月19日23:59

  1.  被災地の農業復興において、最も重要なのは風評被害の払拭であると感じた。メディアでは放射線による汚染の被害の大きさにのみ注目が向けられ、復興に向けて除染が進められている現状についてはあまり触れられていないように感じる。
      インターネットが発達している今、マスメディアに頼るのではなくSNSを効果的に活用することで特に若年層に向けて復興のアピールをしていくことが出来るのではないだろうか。被災地で作られた特産品を購入し、それを積極的にSNSにアップロードすることによって徐々に風評被害を払拭し被災地のブランド力を高めることに貢献できるのではないかと思う。若い人たちに製品を購入した後にSNSにアップロードしてもらうためには、いわゆる“SNS映え”を意識したパッケージが必要である。被災地の農業の担い手はほとんどが高齢者であるため、若者に受けるパッケージ開発のためにはターゲットである若者の視点を取り入れることが重要になる。企業と協力してインターンシップという形をとることでマーケティングに関心のある学生を取り込むことができ、さらに学生たちに農業や被災地復興に興味を持ってもらうことが出来ると思う。
     また、インターネット活用の一環として特産品販売に特化したアプリやサイトの開設という形でも被災地の農業再生に携わることが出来るのではないかと思う。福島の特産品を検索した時、県やJAのホームページでの特産品紹介が検索結果上位に出てきて、具体的な商品販売に直結するようなページがあまり見当たらなかった。情報として特産品を紹介するのではなく商売として特産品を販売するページをデザインすることによって、被災地での消費だけでなく、遠隔地での消費も増やすことが出来る通信販売にも力を入れていくべきだと感じた。
      学生を中心とした若者たちを購入者として農作物を消費するだけの立場においておくのではなく、積極的に農業再生の構造の中に取り込むことによって彼らの農業再生・被災地復興に対する関心を高め、正しい理解をしてもらうことが重要になってくると思う。若い世代の方が、「基準値以下の放射性物質しか検出されていない」という数値的な根拠によって被災地、特に福島の農作物に対する偏見を払拭するのが容易であると考えられるので、まずは若年層をターゲットにして被災地の農作物のブランド力を高めていくことは大切であると思う。
     ここまでは主に商業的な側面から考えてきたが、学問的な側面からも被災地の農業再生について携わることが出来ないかどうか考えていきたい。
      現在被災地で行われている除染は、主に表土剥ぎ取りによるものである。植物を用いた除染は研究段階にあり、実用化には至っていない。農水省によるヒマワリでの除染の実験が失敗した一方で、弘前大学による「ネピアグラス」を用いた実験では除染への有効性が示唆されている。このような植物を用いた除染について研究することは被災地の農業再生に大いに役立つと考えられる。今すぐにこのような研究に携わることは難しいが、このような研究テーマがあるのだということを心に留めておくことで将来的に植物の放射性物質の吸収をより高める方法を開発することが出来るかもしれない。
     また、講義でもあったように「までい工法」によって「地下水が汚染されるのではないか」というような懸念を持つ人々は少なくなかった。泥水の濾過実験は誰もが見たことのあるものであるのに、それを放射性物質の除染と結び付けることは非常に難しい。このような簡単な原理によって説明のつくものに関して、泥水の濾過実験などの単純化した実験を見せることによって人々の除染への理解を助けることが出来るのではないかと思う。小学校などに出向いて実験のデモンストレーションを見せることで、子供たちが論理的思考に基づいて除染や放射性物質を理解することが可能になる。これは、今からでも実践できることである。
      被災地の農業再生において大切なことは、放射線について話してはいけないというような放射線汚染をタブー視するような風潮から脱し、除染の原理や被災地の現状の理解に基づいた正しい認識を一人一人が持つことであると思う。そしてその正しい認識を少しずつ周りに広めていけるようにしていきたいと思う。(理1)

  2.  自分自身ができそうな被災地の農業再生への協力の方法は,大きく3つに分けられると考える。まず一つ目は放射線環境科学の講義で扱われているような,原発事故による放射能汚染を受けた地域の農産物の安全確保に関する取り組みについて正しい知識を得ることである。またより直接的な方法として,実際に被災地を訪れて農業再生の取り組みがどのように進められているかを学ぶことが考えられる。そして最後に,将来的な考えであるため具体的なものではないが,国家公務員を進路の一つとして考えている自分は,農業振興政策,あるいは被災地に関する政策に関わるという形で協力することができるかもしれない。
     一つ目に挙げた,安全確保に関する取り組みについて正しい知識を得るということは,被災地の農産物の信頼性についての理解を深め,最終的には風評被害の影響の軽減につなげることを目指すものだ。例えば「ふくしまの恵み安全対策協議会」ウェブサイトには「これまでの放射性物質検査情報」 が紹介されており,玄米や野菜などの品目について安全性がグラフで示されている。食品衛生法に基づく基準値をふまえると十分に安全性は確保されていると考えられ,このような正確な情報源から被災地の農産物の現状を知ることが重要だと考える。安全性に対する不正確な知識や不安から風評被害はインターネットなどを通じて拡散してしまうと考えられるが,一方で個人がSNSなどを利用して自治体等の公表した安全性についてのデータを広く発信することも可能である。
     二つ目に挙げた,実際に被災地を訪れることについては,二瓶先生や飯舘村役場の杉岡さんのお話を聞いて,ある程度重要性を認識できたと考えているが,やはり現地で除染が行われた農地を見て,農家の方の話を聞かなければわからないことが多いはずだ。溝口先生や田野井先生が企画されているような現地で学ぶプログラムを活用したり,自分で訪ねたりして被災地の現状を実際に見てみたいと考えている。そのような経験が,はじめに挙げたような被災地の農産物への信頼性についての理解につながると思われる。
     最後に,将来的に自分が責任ある立場として行政に関わるとした場合,たんに復興のための農業政策だけでなく,原発関連のエネルギー政策や食品衛生の視点からの福利厚生に関する政策など,様々な面から被災地の農業再生を支援することが可能であると考えている。福島の原発事故への対応は今後長期的に取り組まなければならない問題であり,それにともなって被災地の農業再生も長期的な視点から支援しなければならない。杉岡さんのお話にもあったように,国家公務員の立場であれば,他の都道府県の状況もふまえて現地の自治体の要請にある程度柔軟に対応できると考えられる。被災地の農業再生には被災した農家の方々との合意形成が重要になるため,今後の法学部での学びが活用できるかもしれない。(文1)

  3. 課題1でも述べたのだが、私は福島原発の事故を理由に東京都から母の実家のある島根県に避難した経験がある。事故後半年ほどは東京で暮らしていたものの、その際も食品の産地には常に気を配り、東北地方の食品は買わないようにしていた。そうは言っても、当時私はまだ小学5年生だったので、自分の意志というよりはそういう風に教わっていた、といった方が正しい。こういった経緯があるので、昔から放射能汚染に関することは何かと身近にあるもので、福島県に赴き避難者の一時帰宅を支援するなどの形で被災者支援を行ったことはあるものの、「食べて応援」という方法には手放しで賛成できないというのが正直な考えである。そのため、被災地で収穫された食品を買うか買わないか、という選択については、個人の選択の自由を確保するべきであると考えている。そこで、私が考える被災地の農業再生として、一人でも多くの人に被災地の現状を知ってもらうことを目標にし、そのために何をするべきかを考えていきたい。これは、現段階で噂やイメージだけで被災地の食材を避けている人のうち、一人でも多くの人が正しい理解を持つことによって、害悪な風評が広がり被災者にとって悪影響につながることを防ぐことができると考える。また、そういった噂やイメージで判断するのではなく、適切な知識を得た上でそういった食品を買うか買わないかの選択をするならば、どちらの選択も認められるべきであると考える。では、一人でも多くの人に正しい現状を知ってもらうためにどうするべきか、という点についてだが、これは自分自身ができることとしては非常に難しい問題であると考える。専門的な知識を持つ人のお話を積極的に聞くように促したり、関連する資料について主体的に情報の偏りなく調べ、周囲の人に広めたりする努力を要すると思う。自分自身のできることとしては微々たる影響になるとは思うが、少しずつでも取り組めていけたら、と考えている。個人的にできることの範疇は超えてしまうが、大手の飲食店などが被災地支援として東北産の食材を使用することには比較的肯定的である。そこでそれらの商品を買うか買わないかの選択をするのは消費者であるため、一定数購入を避ける人もいるかもしれないが、大手であればあるほど、購入者数も多いことが見込まれるため、被災地へのプラスの影響も大きいのではないかと考える。このように、自分自身ができる努力は非常に微力だが、今後も、放射能汚染についての情報収集をしっかり行い、すべてを鵜呑みにするわけではなくきちんと見極めた上で行動していきたい所存である。(文3)

  4. report


講義内容  みぞらぼ
amizo[at]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
Update by mizo (2018.12.20)