土壌圏の科学(2024.12.11)
土壌の凍結
担当: 溝口勝
このページは、受講生のレポートを共有することにより、学生が講義を単に受けっぱなしにせず、自分の考えを主体的に表現し、自分とは異なる視点もあることに気づき、より深みのある理解を得られるようにすることを目的に作成しています。
資料
土の凍結(2024.12.11) 受講者40名
講義資料 出席フォーム(このフォーム提出で出席点とします。締切:翌日の12月12日23:59)
(参考)昨年度のQ&Aとコメント:今年と比較してみてください。
Q&A
- 工事などの一時的な水分遮断においては初期コストの関係から遮水壁建造よりも合理的なように思えたのですが、原発の隔離のような長期利用になると、ランニングコストの面で遮水壁のほうがよいのではないかと思いました。やはりコスト以上に自己修復能力という特有のメリットが重く見られているのでしょうか、それとも年単位のランニングコスト込みでも遮水壁より安価なのでしょうか。
-->講義中にも強調しましたが、原発敷地内に飛び散った放射性物質から放出される強度の放射線を遮蔽するために分厚い鉄板が敷き詰められていました。そのため作業に多くの面積を必要とする他の遮水壁工法が使えないので、ボーリング孔を掘るだけで済む凍結工法が実験的に採用されました。一度凍ってしまえば凍土壁を維持するエネルギーは凍土形成時より少なくて済みます。
- 私自身凍土工法のメリットを重要だと思う点として挙げさせていただきましたが、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。スライドでは凍土工法による施工にあたりかかるコストや施工が可能な条件などが触れられていなかったので気になりました。
-->前年度のQ&A-1の回答を読んでください。
- 霜柱が一日に一層しかできないというお話があったかと思いますが、それはなぜですか?聞き逃していたら申し訳ありません。
-->霜柱直下に地中から土壌水分が連続的に供給され続ければ霜柱は成長を続けます。しかし、関東地方などでは放射冷却で冷え込んだ朝でも日中になると一旦冷え込みが緩み、霜柱直下の土壌水分量が減少しているので霜柱の成長が停止します。日中の間に地中から土壌水分が移動してきて霜柱直下の土壌水分量が回復するために、翌日の夜間・朝も冷え込むと前日の霜柱直下の土粒子の下で新たな霜柱が成長します。こうした理由で2階・3階建ての霜柱ができるのです。
- 講義だけでは理解できなかったのですが、講義で例に挙げらえた東京湾横断道路の凍結工法施工では現在でも、冷却システムなどを使ってトンネルの周りの土を凍らしているのでしょうか?
-->いいえ、工事終了後は冷却していません。コンクリート壁で強度を維持しています。
- 上に関連して、凍結工法後に解凍すると自然地盤に戻り、地下水流は工事前に戻るとのことだったが、凍結により遮水壁を作っている間にその周囲に地下水がたまり、解凍後に大量の水が流れるようになって水流が大きく変わる可能性はないのかについて疑問に思った。
-->凍結工法後に水路(みずみち)が大きく変わったという事例はあまり聞いていませんが、可能性としてはあるかも知れません。静岡県のリニア中央新幹線工事では水脈が切れることによる農業用水等への影響が懸念されています。
- 凍土壁の品質管理は、もっぱら温度の測定によって行われているのでしょうか。(不測の事態によって穴が開くといったことは、壁が分厚く硬いので考えにくそうですが)
-->そのようです。講義資料p5にあるリンク-「未来のために」凍土方式 陸側遮水壁工事
(鹿島)-を読んでみてください。とても丁寧に説明されています
- 日本国内でも、道東北や中央高地などの寒冷地では構造土やアースハンモックなど土壌の凍結融解による周氷河地形が見られるようで、最終氷期にはより広い範囲で(季節的に)土壌が凍結していたのではないかと思うのですが、その証拠として今回説明されたような土壌断面における凍土の特徴を用いることは可能なのでしょうか。
-->きわめて専門的な質問で、私も正しい回答をする自信がないのでChatGPT4oに聞いてみました。こちらを参考にしてみてください。
講義で重要だと思ったこと
- 凍土がどのように作られかつようされているのか
- 凍土による地下水の分断が可能であり、原子力発電所周辺のみならず、海底トンネルにおける工事中のシーリングにすら利用できるほどの水準で遮断が可能であることに驚き、また重要だと思いました。
- 農業系で物理化学を専攻しようとしている学生は化学熱力学で詰まってしまうことを知って、いまやっている土壌物理学だけでなくこっちの分野もやろうと思った。
- 凍土研究は土壌中の水分移動と密接に関わっており、その水分移動を追いかけるために物理化学の知識が役立っている。
- 凍土がさまざまなことで活用されているということ
- 表面張力と液体の密度と重力加速度と管の半径から、水が重力に逆らうように移動する毛管現象を計算できること。
- 水は下から上にも移動するのは、重力より毛管力の方が大きいから。
- 凍土工法の有用性(@優れた圧縮強度、A極めて低い透水性、B凍土壁内のエネルギー的均質性、C環境への負荷の少なさ)
- 凍結工法の応用方法やその実践例
- 凍結過程の水分移動は液状水が氷に相変化する段階を含み、水ポテンシャルが高いところから低いところへ水分が移動する。これは乾燥過程で液状水が水蒸気に相変化することと対応して捉えることができる。
- 地下に氷の壁を作るという発想は面白く、自然に悪影響を与えない点も優れていること
- 放射性セシウムが土壌に積もって甚大な被害をもたらしたということは知っていたが、具体的に土壌のどこに存在するかは知らなかったので、粘土表面の穴に入っているということを知れて勉強になった。
- 強度、遮水性、環境負荷などの面から、凍結工法が地下の工事において有用であること。
- 水ポテンシャルを数値として求めることで、湿度や気温のデータから土壌中の水分移動を分析できるという話。
- 遮蔽性や、環境に優しいなどといった凍土壁の特徴
- 凍土は遮水壁や人工地盤凍結工法、農地除染など、身近な施設で使われている。
- 凍土は透水性が低いので、様々な方法で利用される。
例えば、地下における工事で水が侵入してこないように凍土壁を設置する、放射性汚染水が漏出しないように凍土壁を設置する、などの利用方法がある。
- 凍土は地球温暖化を防ぐうえで鍵となることは以前聞いたことがあったが、それだけでなく除染に応用できるというのが意外で、重要に感じた。
- 土壌の中の水の移動において、氷土が大きな影響を与えていること。
- 水ポテンシャルの差のため、表層土壌の乾燥等が水の下から上への移動を引き起こすことがあること。
- 水は水ポテンシャルの高いところから低いところへ移動する力が働き、それは単純な重力と合力した際に標高の高い方に運動することがあり、それが適切な土壌利用において考慮必要であるということ。
- 土壌は種類によって、透水性や毛管現象の起こりやすさといったさまざまな要素が異なっていて、それらの要素を数値化することで数式でのシミュレーションができ、理論的に土壌の特性を導き出せるということ。
- 優れた強度や遮水性によって凍土は様々な分野で活躍している
- 凍土は地下鉄工事や被災した農地など様々な場面で利用されている
- 私が重要だと思ったことは、学問は実践につながっている必要がある、ということである。今回は毛管現象や凍結過程の土壌水分移動などのさまざまな土壌に関わる現象が紹介されていたが、その根底には化学ポテンシャルやクラウジウスクラペイロンの式など熱力学における重要な式があった。こう言った考え方を知らないでいると、今回の文化庁の例のように実際の政策で失敗する可能性もある。ここに学問と実践がつながっている必要性を感じた。
- 凍結工法の特徴として、他の方法で地中に壁を作るよりも環境負荷(薬剤による汚染など)が小さいことは重要だと思った。人に対して公害的な害を与えにくいという点だけでなく、生態系への影響も抑えられるという視点からも重要性を感じた。
- 凍土壁、凍結工法の有用性。特に、福島原発の例。
- 凍結工法は方法自体は土壌中の水を凍らせるという単純なものだが、強度や遮水性の点で優れているだけでなく、水ガラスを利用する他の方法に比べ工法後はそれを溶かして水に戻せば良いだけなのど環境負荷も少なくできること。
- 人口凍土は、優れた強度をもち、透水性が低く、均質的で、環境負荷も少ない。
- 凍土が様々な形で今後利用される中で農学の観点からの研究がより必要なこと
- 水ポテンシャルは高い方から低い方に移動するということ。(土壌中の熱と水分の移動が土の凍結には重要ということなので。)
- 講義のメインの内容ではありませんでしたが、「農学栄えて農業滅ぶ」のところで実際の課題、農業における課題に寄り添って学問として昇華させ農業に還元するといった考え方を念頭に置いておくことが重要であると感じた。
- 地下の工事を行うとき、凍土が役に立つ。
- 凍土を使った工法は、凍土が水を通さないという性質から、地下水が多い土地で便利であること。
- 毛管現象は身近な現象だと感じていましたが、塩害や凍土などについて改めて考えると、様々な面でとても重要な概念だと感じました。
- 凍土遮水壁などの凍土利用や地球温暖化の影響を考える上で凍土研究は大きな意味を持つ。
- 土の凍結現象について、毛管現象を鍵に化学ポテンシャルなどの化学熱力学の基本的な考え方を応用して理論的にある程度説明できるということ。
- 最も印象に残ったのは、先生が凍土の研究を続けてこられた中で、福島の原発事故後に汚染された表土を撤去する際に、凍土を剥ぎ取る手法を応用されたというお話です。理系学生として、自分が情熱を持って取り組む研究が、いつどこで役立つかを予想できないところで応用されるというのは、常に広い視野を持つことが求められると感じました。自分も、幅広い視野と発想力を持った研究者になりたいと強く思いました。
- 凍結工法という氷で水を遮蔽する方法
- 土壌水の熱力学
自由意見
- 今まで凍土というものに着目したことがなかったが、知れば知るほど面白い分野だなと思った。農学部に所属する身として、日本の農業のことを考え続けることをやめてはいけないなと思った。
- 高松塚古墳2回いったことあります。文科出身ので物理ができない自分が悔しかったので、いつかわかるようになりたいです。
- 先生の過去の研究やその中での体験・経験のお話が個人的に面白かったです。
- うみほたるがあんなふうに作られたという話が面白かったです!
- タフさは大切ですよね。
- 地球温暖化が進む中で、永久凍土の融解によって未知のウイルスなどが流出する危険があることには関心があったため、凍土の研究は重要であるとの思いを強くした。引退されるとのことで残念に思う。
- 凍土と言うと、永久凍土くらいしかイメージがなかったのですが、農学などで利用されているのは驚きでした。
- 金曜2限の西村先生の土壌物理学を受講して習った用語が出てきて、少し嬉しくなった。また、熱力学は苦手なので積極的に勉強していきたいと感じました。
- 文系だが、環境について精細に理解するために数学と物理を学習する必要性をあらためて感じた。
- 凍土剥ぎ取り法の話は過去に別の授業で聞いたことがあったが、今日の授業では凍土工法の色々な使い道が知れてよかった。
- 永久凍土でしか凍土という単語を聞いたことがなかったので意外と身近なモノだということを知って驚いた。
- 私は特に永久凍土について興味を持った。永久凍土内の土壌の様子や、そこでの生物活動についてもっと知りたいと思った。
- 先生のお話がお上手で、大変楽しかったです。
- 非常に興味深い話をお聞かせいただきありがとうございました。
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みぞらぼ, 農学国際専攻, 農学生命科学研究科, 東京大学)
mizo[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
Update by mizo (2024.12.13)