東京大学総合科目一般・食をめぐる水と土の環境科学

福島県飯舘村における農地除染と農業再生

担当: 溝口勝


このページは、受講生のレポートを共有することにより、講義を単に受けっぱなしにせず、自分の考えを主体的に表現し、自分とは異なる視点もあることに気づくことで、より深みのある講義にすることを目的に作成しています。

資料

福島県飯舘村における農地除染と農業再生(2019.5.23)  受講者34名  講義スライド

質問

Q1. 埋めた土の放射線量を測るためのパイプが地上に飛び出していましたがその為にトラクター、コンバイン等を使いにくくなるということは起こりませんでしたか?
A1. はい、もちろんありました。そこは農家さんが上手に避けて作業してくれました。農家さんは農業機械操作のプロですから。

Q2. スライド49・50で理解が追いつかなかったです。
A2. すみません、ちょっと説明上足でした。49ページの左側が松塚地区の畦畔埋設工事後の測定値、右側が佐須地区の表土埋設後の測定値です。畦畔埋設工事では汚染されていない土も一緒に埋設しているので埋設土のセシウム濃度が最初から低かった。そのためピークの位置が1/3くらいになっています。この図は私の研究者人生で一番の自信作で、9月の学会で発表予定の未公開データです。
 50ページはそれぞれのピーク位置と最大値をプロットしたものです。詳しくは下記の文献を見てください。
   飯舘村の水田に埋設された汚染土壌から放射性セシウムは漏出するか?
   Monitoring of soil radiation doses from contaminated soil buried in a paddy field in Iitate Village, Fukushima(Paddy and Water Environment, pp 1-4)

Q3.24枚目のスライドに出てきた、黒い袋に入った汚染土は最終的にどのようにして処分される予定なのでしょうか。
A3. 8000Bq/kg以下の土は道路の路床材等の土木材料として再利用されることが計画されています。講義の結論部分でも述べましたが、水が浸透する水田に埋めてもセシウムは移動しないのですからコンクリートやアスファルトで覆われていれば科学的にはほとんど移動しないといえます。飯舘村の一部地区では農地の下に埋設してその上にバイオ燃料になる作物を栽培する実験も計画されています。ただし、これに関してはその作物が根からどれくらいセシウムを吸収するのかが不明なのできちんとした実験が必要です。
   飯舘村長泥地区における除染土再利用実証事業

Q4.埋設に使用する土はどこから持ってくるのですか?また、既存の除染とコストの面でどのくらい差があるのですか?
A4. 近くの山を削って使っていました。セシウムは地表面に留まっていますからその下の土は汚染されていません。この非汚染土を削った後の農地に入れます。この方法を客土(きゃくど)といいます。お客さんの土を農地に迎えるような意味ですね。
 自前でやるのですからほとんどコストはかかりません。除染工事費を農家さんに渡して自分の農地を自分で除染するような政策ができたならばもう少し事情は違っていただろうな、と個人的には思っています。でも個人で埋設する方法の安全性を理解してもらうには時間がかかります。その一方で行政としては一刻も早く除染して空間線量率を下げなければならなかったのでどうしても大掛かりな工事を採用せざるを得なかった事情もあります。そのあたりの事情については下記を参照してください。
   自分の農地を自身で除染したい百姓魂

Q5.放射性ヨウ素についてはEUの基準より日本の基準の方が緩いようなのですが、何故なのでしょうか?
A5. 食文化による違いでしょうね。日本人は味噌汁なので昆布やワカメなどの海藻を普段から摂取しています。日本人は普段から欧米人よりヨウ素を甲状腺に蓄えているので基準が緩いのだと思います。(自分で調べてみてください)

Q6.飯舘村での除染作業はどのくらいの面積でやったんですか?
A6. 除染実施対象面積=約5,600ha と公表されています。(下記参照)
   飯舘村の除染特別地域について
しかし、飯舘村は75%が山林ですがそのほとんどは除染されませんでした。宅地や道路から30mの範囲だけが除染対象でした。山から放射性セシウムが流出することが懸念されますが、森林総合研究所の研究によって「放射性セシウムは森林内を循環するといわれています。
   森林内における放射性セシウムの動態

学生のコメント

  1. 風評被害の払拭は相当難しいであろうことを改めて感じた。
  2. セシウムが粘土に捕まってほとんど動いていないということを今日初めて知り、感動しました。
  3. 今までで一番楽しい授業でした。ゴールデンウィークに、川人ゼミでちょうど飯舘村を訪問したので、興味深かったです。
  4. 東京新聞で削除された部分について、わたしは「莫大な金もかからない方法が地方で導入されていることを都市の人が知れば、なぜ早くその方法を取り入れなかったのか、税金の無駄遣いだと批判されることを防ぐためかなと思いました。農学だけでなく情報科学という面からの考察が新鮮で大変勉強になりました。科学理論がもはや安全安心を保証するものではなくなった今、真摯な対応、伝え続けることこそが大事なのだと感じました。 (秋田県出身ですが、秋田犬は1歳-2歳になる頃には体重30kg前後に成長しますよ!^ ^) -->そうなの?知りませんでした。ロシアのザギトワ選手とテレビに映っていた1歳2か月の秋田犬マサルはまだ小さかったwww
  5. 東大農学部が飯館村の農地除染に携わっているとは知らなかった。土壌除染の仕組みや現状などを分かりやすく説明していただけたので、とても興味深かった。
  6. 何かの拍子に飯舘村のシールをもらった気がします。3年前に先生の講義を受けたかもです。3年前は爆睡してましたが今日の講義は面白かったです。
  7. 放射線量食品規制値が日本と世界とで著しく違うことに驚いた。福島原発事故以降私自身放射線量に対して過敏に反応している面があったので、数字をきちんと見ることのできる人間になりたいと思った。 セシウムと粘土に関しての話し、興味深かった
  8. 先生の研究が現地の人に分かってもらえない事もあると言うお話が印象的でした。
  9. 被災地の汚染された土を除くための様々な方法が興味深かった。
  10. 先生が冒頭で仰っていた通り、飯舘の人々は原発事故以降科学技術を信用出来なくなっていて、その結果として除染案をデータ等を用いて説明しても賛同が得づらい現状となっているのだと感じました。
  11. セシウムが年度に吸着するということを初めて知りました。
  12. セシウムが水には溶け込まず、粘土にくっついたままでいるということには驚きました。汚染土の処理の仕方についても、凍った土を5pほど取り除くことで除染したり、泥水にして撹拌したりするなど、地域にあった、低コストでできることもあることがよく理解できました。ぜひ、汚染土や科学知識についての正しい知識が世の中に広まってほしいと思います。
  13. 放射線は目で見えない、そして知らないうちに体に害を及ぼすゆえに様々な憶測が飛び交っています。僕の親戚にも陰謀論を信じ込んでいる人もいて、福島=チェルノブイリと捉え、あそこに行ったら死ぬから絶対に行ってはいけない、線量計も日本産のものは数値が低く出るから信用してはいけないと言います。つまり、疑似科学に惑わされているのですが、今回の授業でその主張が間違いなく疑似科学であるということを明確でわかりやすい論理で学べたのですごい有意義でした。

課題レポート

  提出者18名

課題:
溝口研究室(Mizo lab.)ホームページのTopicsの記事の中から2つを選んで読み、講義を聴いたことを参考にしながら、「あなた自身ができそうな被災地の農業再生について」考えを述べよ。A4で1枚から2枚程度にまとめて提出すること。


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amizo[at]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
Update by mizo (2019.7.31)