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【書評】日本の社会保障(広井良典、岩波新書、1999年)

ジャカルタでの国際会議も無事に終え、昨日日本に戻りました。この会議で私は、日本とインドネシアの国民皆保険制度に加えてインドネシアの伝統薬ジャムゥについて、それぞれの歴史的展開をレビュー論文的に発表したのですが(こちらの学会発表の業績記事もご参照ください)、扱うテーマも多く、また英語で2,000語以内という字数制約もあって本発表では取り上げることのできなかった良書を本記事では以下に紹介したいと思います。

『日本の社会保障(広井良典、岩波新書、1999年)』

はじめに
第1章 福祉国家の生成と展開
第2章 日本の社会保障-その軌跡と問題点
第3章 社会保障を考える視点
第4章 これからの社会保障-理念・選択肢・方向
おわりに-定常型社会のビジョンへ

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本書の第1章(1-34頁)を読むだけでも、日本の社会保障を世界各国と比較した場合の相対的な位置づけが大まかに理解できます。本書の著者によれば、社会保障ないし福祉国家の類型は「A 普遍主義モデル」(例:北欧諸国)、「B 社会保険モデル」(例:ドイツ、フランス)、「C 市場重視モデル」(例:アメリカ)の3つに整理されます。日本は当初Bの社会保険モデルから出発したのですが、歴史的な経緯もあってこれらの異なるモデルを半ばツギハギ的に組み合わせている面が多分にあり、基本的な理念や考え方が見えにくく、それ自体が現行の制度の基本的な問題となっている(23-24頁)ことが分かります。

続く第2章(35-97頁)では、日本の社会保障の特徴を歴史的展開も含めて評価したうえで、日本の医療・年金・福祉の特徴と問題点を整理しています。そして第3章(99-178頁)では医療・年金・福祉などの社会保障制度に関して、「どこまでが公的部門によって担われ、どこからは私的部門に委ねられるべきなのか」を議論するための土台となる視点(経済学的視点、公平性の規準、共同体の意味、グローバリゼーションと社会保障)について丁寧に解説しています。第3章の結論部分から第4章(179-205頁)とおわりに(207-214頁)は著者による「定常型社会」のビジョンを提示する内容となっています(例えば広井良典 『定常型社会―新しい豊かさの構想』、岩波新書、2001年を参照)。

いずれにしても、医療・年金・福祉などの社会保障制度に関して公共の場で議論するための土台となる予備知識を、著者が「はじめに」でも述べているように原理に遡った考察に基づいて提供しているのが本書であるといえるでしょう。