東北タイ天水田の土壌情報モニタリング

(1)実験の目的
 現在、衛星を利用して地表面土壌水分量を推定する研究が盛んに行われ、世界の土壌水分を示す地図が公開されている。しかし、衛星によって推定された土壌水分量を検証する方法は確立されていない。そこで、衛星リモートセンシングと地上フィールドの土壌水分測定値を検証することを目的に、FSに土壌水分センサを取り付けて東北タイ天水田土壌情報をリアルタイムモニタリングする実験を始めた。

(2)実験の方法
 2006 年12 月にFS3台をタイ東北部コンケン県の天水田(緯度16°27.657,経度102°32.443)に設置した。観測項目は、気象要素(気温・湿度・日射量・風速・雨量)、土壌要素(体積含水率,地温,EC)および現地フィールドの画像である。土壌要素の測定のために、土壌水分センサ(ECH2O-TE, Decagon Device, Inc.)を深さ4,8,16,32cmに埋設した7)。 これらのデータはインターネット経由でほぼリアルタイムで日本の中央農業総合研究センターのサーバに蓄積される。
 本研究で新たに開発したシステム(土壌情報モニタリング用FS, FS-SIM)の構成を図8に示す。本システムはFS本体と土壌水分データロガー(Em50)および土壌水分センサ(ECH2O-TE)から構成される。水田中に設置する関係上、ソーラー電源で駆動させている。現地の土壌情報は、ECH2O-TE ? Em50?FS?メッシュネットルータ(RMR)?FS用ロガー(FSAB) ?インターネット(IP-STAR)?中央農業総合研究センターサーバ?ユーザという流れで届く。

図8 土壌情報モニタリング用FS(FS-SIM)の構成

(3)観測結果の一例
 蓄積されたデータは、中央農業総合研究センターで開発されたJavaソフトを利用してダウンロードできる(図9)。これらは、現在はまだ研究段階で非公開であるが、近いうちに一般公開する予定である。

図9 東北タイの天水田から自動的に送られてくるリアルタイムモニタリングデータ。3台のFSの画像と気象・土壌データが表示される。

@気象および土壌データ
 図10はJavaソフトを利用してWeb上に展開された東北タイ天水田における気象データ(xml形式)とグラフの一例である。現在のところインターネット通信が不安定なため、完全なリアルタイムデータ取得にまでは至っていないが、今後は蓄積されたデータを用いていろんな角度からの解析が可能になると思われる。
 図11は土壌情報の時間変化の一例である。ECH2O-TE値は体積含水率,地温,ECを同時に含んだデジタル値であるため、それをソフト的に分解する必要がある。現在はまだ試験段階なので、FSからは生のデジタルデータが送られてくるので、図中にはエクセル上で分解解析した結果を示した。深さごとの地温の位相の違いや地表面付近のEC上昇の傾向等が捉えられているが、更なる長期的な解析が必要である。

図10 Javaソフトを利用してダウンロードされたxml形式の気象データとグラフ

図11  土壌センサ(ECH2O-TE)によって観測された土壌情報(地温・電気伝導度・土壌水分量)

A 画像データ
 サーバにデータが蓄積されているので、Web上で連続的に画像データを再現することも可能である。(図12)この機能により、乾期の天水田で牛が放牧されている様子や雨期に入り水田に水が溜まっていく様子などを見ることができる。

図12 FSでモニターされた乾期天水田の画像(2007年4月10日)。放牧された牛がときどきカメラに向かってくる。

(4)今後の展開
 2006年12月末に設置したFSが3月末になってようやくデータを送り始めてきた。しかし、まだ以下のような問題が残されている。@動物対策:何らかの小動物に雨量計のリード線が2度にわたって噛み切られていた。また、1本の土壌水分センサも断線してしまっている。A通信の安定性確保:現地メッシュネットルータ間通信の問題または小学校施設の停電によりデータ損失がみられる。B土壌データベース(DB)の整備:センサ特性を土壌ごとに整理する。C2次データの加工:蓄積データを有用な情報に変換するためのソフト開発が必要である。D現地カウンターパートとの協力関係の強化:現地の不測の事態に対して迅速に対応してくれる人的ネットワーク作りが重要である。


フィールドサーバによるリアルタイム農地情報モニタリングシステム

  1. はじめに
  2. フィールドサーバ(FS)
  3. システムの構成
  4. 事例
  5. おわりに

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